ヒザイミズキの、日々の旅 ブログ編

(元)俳優、ヒザイミズキの日々は旅のように。

【父を送る】1、前日回顧

6月25日(木)

 

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わたしは父に似ている
四角い顔、ギョロっとした眼、短い手足、乱視がひどくてアレルギー性鼻炎
怠け者で偏屈、勉強ができて運動は苦手、文化やエンタメが好きで多趣味で飽きっぽい
最近はおどけた時の表情が自分でも引くくらいよく似てる

私はお父ちゃん子だった
母はしっかりものでエネルギッシュで愛情深かったけど、ずぼらでマンガ好きの父と出かけるのが好きだった
映画館でジャッキー・チェンの映画を見たりミスドでドーナッツ食べながらマンガ読んだりするのが好きだった
父の本棚には萩尾望都藤子不二雄ますむらひろしの漫画がたくさんあって、こっそり読んでは漫画家への憧れを募らせた

父には一度しか怒られたことがない
小学生の頃、他の子のことを、塾で一番下のBクラスだから、と言った時
そうやって他人を馬鹿にする子はいくら勉強ができても全然偉くない、というような感じで怒られた
私は当時運動ができなくて学校でさんざん馬鹿にされてるのに、勉強ができなくて馬鹿にするのはいけないのか、とすごく悔しくて泣いた
もちろんわかってる

父は病気のデパートだった
若い頃から糖尿病でアルコール依存症だった
当然高血圧だし眼も悪くなったし肝臓も胆管も肺も悪かった
救急車に4回運ばれたし何度も入院した

父は6年前に死にかけた
心筋梗塞で意識が何日も戻らず、医者の感触も正直もうダメそうな感じだった
看護師でもある叔母は もう延命治療しない方がいいんじゃないかと言ったくらいだった
でも(本当にいろいろあったけど)復活した
その年の9月に私は男児を出産した
いま、じーじと5歳の息子はとても仲良しだ
図書館で絵本をたくさん読んでくれるし、トランプやカルタや屋上菜園で遊んでくれる
じーじが挿し木で分けてくれたミニトマトはいま、うちのベランダでどんどん成長している

一度死にかけたあとは、一生無理かと思ってた断酒を成功させ、おかげで酔って母にあたることもなく穏やかな性格になった
ここ2年くらいはめっきり元気で、ボウリングに落語に源氏物語の勉強会に断酒会と、ウキウキと出かけては帰ってきてから家族にウンチクをたれていた


今年3月から、コロナのアレで、ハイリスクの権化である父とは会わないようにした
息子は会いたがったけどzoomやSkypeにした
6月は父の誕生日 70歳の古稀祝い
自粛もそろそろ良いだろうと思って姉一家も含めて集合してお祝いした
もし あのまま会わないように(会わせないように)していたら。
もし 倒れる2日前に「サツマイモ植えるけど来ない?」って言われたとき断っていたら。
病院に向かう間中、頭の中をぐるぐるとまわった

古稀でプレゼントした名入れのタンブラー 最初聞いたときは要らないって言ってたけど実際はとても気に入ったようで これは良い、冷たいものが冷たいままだ、結露しなくて便利だ、と、最期の2週間毎日愛用してくれた
倒れたそのときも、母によると、そのタンブラーに麦茶を注いで、冷蔵庫から氷を取ろうとしたところだったんじゃないか、とのこと
その最期の麦茶は、母が冷蔵庫に取っておいて翌日大事に飲んだ

***
これを病院で書いているいま、父はまだ死んでない
脳がほとんど死んでいて呼吸は人工なので、何をもって生きてると言うのかという定義によるけど、要は徐々に心臓が止まるのを待っているという不思議な時間だ

父は私の半神なんじゃないかと、思えてくる
小さくなって死にゆく半神を、(まだ比較的)ツヤツヤの私が見ている

医師に 何時かは分からないが、明日までは確実にもたないだろうと言われた今日が 終わろうとしている
人は簡単に死ぬし、そう簡単に死なない

 

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ER待合室の窓からはスカイツリー

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倒れる二日前に父と息子(孫)で植えたサツマイモ。